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東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)125号 判決

原告 染野義信

被告 麻布税務署長

訴訟代理人 横山茂晴 五十嵐徹 ほか二名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一  請求原因1の事実(本件更正処分の経緯)については当事者間に争いがない。

二  そこで本件更正処分につき原告主張の違法があるか否かについて判断する。

所得税法二八条一項は、給与所得につき、俸給、給料、賃金、歳費、年金、恩給、賞与及びこれらの性質を有する給与に係る所得をいう旨規定しているところであるが、給与所得とは、名目の如何を問わず、雇用関係ないし右に準ずる関係に基づいて、被用者が使用者から受ける労務その他の役務の対価たる経済的利益をいうものと解すべきである。

そこで、本件争点につき、給与所得に該当するか否かを順次検討する。

1  入学増収研究費及び見学研究費について

〈証拠省略〉によれば、入学増収研究費の名目で支給された金員は、日本大学の入学試験に関与した職員で一定の地位以上にある者即ち学部長、監事、事務局長、事務長等を支給の対象者として、会頭、副会頭常務理事が当該大学に対する功労度等を斟酌して支給額を決めていたこと、支給対象者及び支給額を記載した大学保管の査定書には入学増収慰労と表示されていたところ、後日、入学増収研究費と表題が改められていること、当該大学の経理上の処理は検定費として処理されていたこと、また、見学研究費の名目で支給された金員も支給対象者は一定の地位以上の者に対してなされ、支給額の決定は前示入学増収と同様の方法が採られていたこと、右支給にあたり見学旅行の義務或は研究課題の指示は何らなかつたものであることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

そうすると、右各給付は、いずれも研究費の名目で支給されてはいるが、実質的にこれらを考察すれば、入学増収に係る給付は、入学試験にあたつて提供した労務の対価としての性質を有するものであり、見学研究費として支給した金員は、一定の地位以上の者に対する役務の対価としての性質を有するものと認められ、いずれも給与所得に該当すると解するのが相当である。

原告は、給付の名目、受給者の認識、支給された金員の使途等を勘案して所得ないし所得項目の性質を判断すべきであると主張するが、給与所得に該当するか否かは、給付の性格等を客観的に検討して、労務または役務の対価と評価されるか否かにより判断すべきであつて、原告の認識、使途如何により、本件各給付の前示認定に影響を及ぼすものでないので、原告の主張は採用し得ない。

2  附属高校一斉テスト手当について

〈証拠省略〉によれば、右給付は、日本大学が同大学の附属高校の在校生を対象に行なう一斉テストに際し、試験委員として従事した教職員に対して支給されたものであることが認められ、そうすると、まさに労務に対する慰労の性質を有するものと解せられ、給与所得に該当するものということができる。

原告は、本来労務を提供する義務を有しない高校の一斉テストに関して支給された一時金であつて、記念贈与的な性質を有し、給与所得には該当しない旨主張するが、原告の試験委員としての関与は、当該大学の運営の一環としてなされたものであり、右給付、当該大学から支給されたものであるから、原告主張の義務の存否いかんにより、本件給付の前示労務の対価たる性質に消長を来たすものとは到底いえないので、原告の主張は失当である。

3  中元、歳暮、車料について

〈証拠省略〉並びに弁論の全趣旨を総合すれば、中元、歳暮は委員会の委員或は役員等に対して、車料は役付の職員に対してそれぞれ支給され、原告は、前二者については入学試験管理委員会幹事、入学試験問題研究委員会委員という資格において、後者については学監という資格において受領し、右いずれの給付も、各人毎に査定がなされ、地位等によつて支給額に差異があること等の事実が認められ、右認定に照すならば、本件各給付は、いずれも労務或は役務の対価であると解するのが相当である。

原告は、本件の各給付は、金額的にも少額であつて、慣行上行なわれたものであつて所得ないし給与所得を構成しない旨主張する。

原告本人尋問の結果によれば、当該大学においては、毎年七月及び一二月に大学役職員の会同が開催され、終了後に缶詰等とともに中元或は歳暮、車料の名目で金員を支給していたものであつて、支給方法は通常の場合と異なるけれども、前記認定のとおり、支給対象者が特定され、金額も地位等に応じて決められていたこと、金額的にも当該各係争年の物価水準に照して少額のものとはいえないこと及び本件各給付は当該大学において年二回開催され、大学の運営方針、教育、研究の状況について報告が行なわれる会同の終了後に支給されたものであること等の事実に照らせば、右各給付はいずれも、雇用関係に基づいて支給された給付であつて、いわゆる賞与の性質を有する給付にあたり、給与所得を構成するものと解せられるから、原告の主張は採用できない。

さらに、原告は、車料は、旅費の打切支給である旨主張するが、〈証拠省略〉によれば、車料の名目で支給される金員は、地位に応じて金額が定められ、車の利用状況とは関連性がなく支給されていたことが認められ、右認定に照して、原告の主張はたやすく採用することはできない。

三  以上の次第で、本件各更正処分には原告の主張する違法事由はいずれも認められないので、同処分の取消を求める本件各請求はいずれも失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安部剛 山下薫 飯村敏明)

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